Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

   BMP7314.gif 60年目の宝箱 EBMP7314.gif 〜ドリー夢小説
 



          




 結局、あたしは2回戦で不戦敗した。あたしなんかじゃ到底歯が立たないだろう、ゾロさんクラスの凄腕の剣豪ばかりが集まってるって訳ではないけれど、でもね。だからこそ何が起こるか判らない。人間の薄い奴がお調子に乗って、弱い相手と見るや無茶苦茶な力任せで完膚無きまで叩きのめすなんていう、無粋で意味のない暴挙をやらかしかねない。そうなれば、怪我を負わされた本人だけでなく、観客や他の出場者っていう“周囲”にも余計な恐怖を振りまいてしまうから。………ということで取られた善後策だったんだけれどもね。

  【タンヌキ商会、●●● 対 鍛治屋、剣客ウソップ! 前へっ!】

 あ、タンヌキ商会っていうのが例のウラナリ坊っちゃんチの貿易会社の名前なの。社長の名前がタンヌキ。話がここまで進んでやっとのご紹介だね。タヌキ親父って呼び名がこの村では堂々と通じてたってのが判るでしょ?
(笑) 出番だよと呼び出された大男。一応はそこの所属って紹介になってるけれど、どう見たって他所から来た輩らしくって、審判役として隣りの島から来ていた警察道場の師範代や有段者のおじさんたちが、こらこらって寄ってたかって取り付いて、衣装のあちこちから物騒な飛び道具を山ほど取り上げてる。
“せめてルールくらい読めっての。”
 やれやれだねと うんざりしてたら…ウソップさんの方までが、
「スリングショットは認めていません。」
「え〜〜〜っ?! これには火薬も刃物も仕込んでないぞっ!」
 だから“打撃系の武器”だろうがと、頑張って言い張る彼だったりして。………おいおい、ウソップさん。
(苦笑)
「まあ、ウソップは“頭数稼ぎ”ってことで参加させたクチだったからね。」
 さして期待はしちゃあいなかったけどとナミさんが苦笑をし、お揃いの半纏姿のチョッパーが抱えてた綿あめをちょっとだけ分けてもらって、ぱくりとお口へ。
「あら美味しいvv
「だろ?だろ? サイダー味の綿あめなんだってvv
 ほんのりと水色をした綿あめは、ザラメじゃなくってサイダーキャンディーを砕いて使っているそうで。緋色の山高帽子からはみ出させた丸ぁるい枝振りの角を振り振り、
「ピンクのイチゴ味とか黄色のパイナップル味とかもあったぞ。」
 まるで我がことのように威張ってのご報告をするのへ、そ〜れは明るくにっこりと笑ってやって、
「凝ってるわねぇ〜。」
「ナミさん…。」
 そんな呑気なことを言ってる場合ではないのではと執り成しかけていたらば、

  【 勝者っ。タンヌキ商会、●●●っ!】

 審判のお声が高らかに宣言し、場内がどっと沸いた。あああ、ほら〜〜〜。あっさりと負けちゃったじゃないですか〜。残念だようと口惜しがるあたしとは反対に、
「あら、でも 無傷に近いから大したもんだわよ。」
 綺麗な歯並びを見せてにっかりと笑うナミさんであり、
「ちっくしょう〜〜〜っ! 3本勝負だったら勝ってたのによぉっ!」
 おおう。戻って来たウソップさんの鼻息も荒いこと荒いこと。そりゃあまあ、怪我をするよな展開じゃなかったしね。相手が振り回した たんぽ槍風の棍棒を避けるうち、ウソップさんが着ていたオーバーオールの肩紐が片方はらりと落ちたんで、切っ先が当たってのこととされ、一本って宣告が降りたんだけど、
「後ずさりにって飛びのいた歩幅が足りなくて相手の木刀が届いたんじゃなく、あれはどう見ても…勝手にフックが外れて肩ひもが落ちたんでしょう?」
「ああ。悔しいな、ったくよっ!」
 あれれ? あんなに“出たくないよう”って尻込みして大騒ぎしてたのに? 片や、それを見て“そういう奴よ”って呆れ顔してたナミさんだったのに? キョトンとしてたらね、
「あのな、。」
 あたしが羽織ってた半纏の裾を引いて、チョッパーが こそこそって話してくれたの。
「ウソップはな、怖がりだしホラも吹くけど、ここ一番って時は凄げぇ粘り強いんだ。」

   ………え?

「俺やルフィみたいに悪魔の実を食べてもない。見たまんまに細くって、ゾロみたいに剣の修行もしてない。手先が器用だけれど、サンジみたいな“ゲイジュチュ家”系じゃなく、論理組み立て系だからかその分用心深くって。どっちかって言うと“後方支援”の係なんだけどもな。」
 それでもね、乗組員
クルーの頭数が極端に少ない船団なもんだから、敵に囲まれたら非戦闘員だって戦わなきゃならなくなる。石斧振り回す連中に殴られたり、総じて怪力で持久力だって物凄くある“魚人”の乱暴者とだって、ほぼ丸腰で対決したこともあるんだって。俺が知ってるうちだって、どれを取っても大変なことばっかだったんだよ? 砂漠の地雷原に追い込まれ、爆弾の雨あられの降る中を防具もないままに戦ったりしてサ。でもね、どんなにぼろぼろになっても、粘って粘って最後には勝って来たからね。悪魔の実の能力者相手にだって、腹をくくって立ち向かってた。そんで今、こうやって此処にいるんだ。それって凄いことなんだよ?って。自分のことみたいに“誇りなんだ”って嬉しそうな言い方するチョッパーだったからね。

  「…そうなんだ。じゃあ今のも、相手が大したことないって読んだんだね。」
  「おお、きっとそうだぞっ。」
  「凄いんだね♪」

 おおっvv って。元気よく手を振り上げたチョッパーの、誇らしそうな嬉しそうなお顔が、そりゃあもう可愛くてvv 舌っ足らずなお声で自慢していたチョッパーも、そんな彼から“凄い奴なんだから”って手放しで褒められてたウソップさんも、どっちもが羨ましかったよ? 仲間って良いなぁって感動しちゃったよう、うん。あたしにも家族がいるもんね。若い衆の皆さんもいるものね。大事にしなくちゃねって思ったって言ったらサ、今までそんなこと欠片ほども意識してなかったってのも、思えば物凄い幸せなことなんだよって、後でお兄ちゃんに言われちゃったです。ううう、色々と良いお勉強になった機会だったです、ええ。





            ◇



 優勝賞金の額が増えたから…なんかが理由じゃあ勿論なく。町中から忌み嫌われてる悪辣な奴らの悪巧みを粉砕するべく、こっちも受けて立って陣営を整えたその結果として、参加人数が例年の倍という規模にまで膨れ上がってしまい、総試合数が増えちゃった大会は。それでも、身内同士が当たるっていう対戦が多かったせいでか、さして深刻な怪我をする負けを誰も抱えることのないままに着々と立ち合いが消化されてゆき。腕っ節の立つ“大将”を淘汰して勝ち残らせる作業はザカザカと進んで、午前中だけで ベスト8を残すまでへと進んだ効率のよさよ。
「まぁね。敵同士の真剣勝負っていう立ち合いになっても、飛び抜けて強い選手の試合展開は、あっと言う間に片付いたってのばっかりだったからねぇ。」
 そうなの。平和な土地ならではな、型とかルールを厳守してっていうような、おっとりした剣術じゃあない。隙あらば そこを容赦なく抉るように衝くっていう“瞬殺”で、ぱたぱたっと相手を素っ転ばしての勝利を山のように稼いだのが、最初に参謀役のお兄ちゃんが想定していた顔触ればかり。道場の師範代とゾロさん、それからウチの鍛治衆の若頭と、なんと…サンジさんっていう4人が勝ち残り、
「剣士のゾロさんは判るけど、サンジさんが残ったのは意外だったなぁ。」
 コックさんなのにね。それにサ、包丁やおたまや肉叩き棒の代わりの何かを振るうならともかく、ほとんど丸腰でだよ? 武器らしいものは一切持たないで、素手での立ち合いを幾つもこなした彼だったの。一番最初の立ち合いから敵方の流れ者との対戦だったのに、あっさりと勝っちゃったんだよね。それも、両手をズボンのポッケに突っ込んだままでだよ? 開始の声と共に突っ込んで来た大男の、背丈以上の高さまで飛び上がってやり過ごし、音もなく軽やかに着地した背後から、続けざまの連続回し蹴りが何度も何度も繰り出され、最終的には一体幾つ決まったものやら。ただ強かっただけじゃなく、まるで猛牛をもてあそぶ闘牛士みたいに切れがあってスピーディで。そりゃあ鮮やかで綺麗な戦いぶりだったもんだから、

  「キャーッ! 素敵っ!」
  「あの人、誰だれ?」
  「、知ってるんでしょ? 誰よっ!」
  「教えなさいよっ、ねぇってばっ!」

 こんな調子で…大会のあともずっとずっと。普段通ってる女学校の友達たちから、さんざん訊かれちゃったです。
(あう〜〜〜) ここんトコも“ウチの島ならでは”な点で、ひょろひょろっとした ただの色男ではモテないんだよね。せめて“女性をお姫様抱っこ出来る”とか“背負ったまんまで丘の上から港まで、一気に駆け降りて来れる”とか、そういった“体力”も備わってないとサ。でもサ、実を言うとあたしだって、お料理の腕前はともかく…ベスト8まで勝ち上がれるほど強いとは思わなかったよんvv
「あ、ちゃんたら ひどいんだ。意外って言われようこそ意外だなぁ。」
「だって…。///////
 そんな乱暴者には見えない二枚目だからかい? そうだね、洗練された紳士としては、淑やかなレディの前であんまり野蛮なことはしたくはないんだけれどもね。またまたこっちの両手を捧げ持ちつつ、訊いてないことまで語って下さった。キラキラ瞬く透過光を背景に、目許を細めて柔らかに微笑み、限りなく優雅にエレガントに構えて見せた、そんな彼の背後から…ぼそりと響いた一言が。

  「………言ってろ、アホラブコック。」
  「んだと、ごらぁっ。」

 聞こえた途端、打って変わって眉毛を吊り上げ、声の主だったゾロさんへ肩をいからせて詰め寄るあたりが 何ともはや。
(苦笑) すぐに挑発に乗っちゃうのも、紳士のやることじゃないと思うんだけど。(まったくだ)


   ――― そ〜れはともかく。


 こっちはほぼ予定通りの腕自慢4人が勝ち残り、向こうは向こうで助っ人ばかりのやっぱり強そうなのが勝ち残ったの。その4人ずつが準々決勝では…どういうものか、仲間内同士で当たったんだけれど、師範代はゾロさんの当て身で膝を折って降参を自己申告なさり、ウチの若頭は試合開始と同時にやはり自己申告にてあっさり降伏。トーナメント戦の頂上を目指した剣術大会は、いよいよの準決勝に至って、向こうのベスト2とこっちの双璧、奇しくもお客様同士のそれぞれが当たることと相成りまして。

  【タンヌキ商会、剣客、疾風の狼、
         対 鍛治屋、剣客“ラグジュアリー”サンジっ! 前へっ!】

 商工会の組合長さんが、第一試合の組み合わせを高らかに読み上げたが、
「お互いにどういうファイティング・ネームなんだろな、ありゃ。」
 ホントだね、ウソップさん。
(笑) 風来坊らしき相手のはともかく、サンジさんのは…余裕からくる茶目っ気なのかな。あれで一回戦で簡単に負けてりゃあ、口ほどにもないのに何を仰々しいっていう感じの大笑いな名前なんだけど、ここまでの6つもの立ち合いを、いかにも体力自慢のそれはそれはデカい体躯をしていた相手にさえ、ほとんど“瞬技”で仕留めているから恐ろしく。今回のお相手も、格闘技系だろう がっつりとした体格のおじさんで。随分と太い刀を鞘ごと腰から外し、それと同じ大きさ太さの木刀を右手に引っ下げて、試合場の真ん中までノッシノッシと出て来た様は、イーストブルーの和国にいるっていう、相撲取りみたいな貫禄さえあって。

  【始めっ!】

 開始の合図がかかったと同時、バネの利いたジャンプ一閃、一瞬で間合いを詰めて襲い掛かって、
「はぐぅあっっ!」
 余裕の蹴り技であっと言う間にノックアウトを決め続けた恐ろしさ。見るからに分厚い“皮下脂肪”って鎧さえクッションにならないなんて、どういう鋭い蹴りなんだろうかね。あれ? ちょっと待ってよ? このまんまゾロさんの方も勝っちゃったら、決勝戦はえらいことになりゃしませんか?

  「やったぁっ!」
  「サンジ、凄げぇっ!」

 ルフィやチョッパーが、そりゃあ嬉しそうにやんやと迎えた決勝進出決定者と入れ替わり、腰に木刀を2本も下げたゾロさんが柵で囲われた試合場へと進み出る。擦れ違いざまに、
「次で当たるからな、首洗って覚悟して待ってろ。」
 ゾロさんへそんな言いようをしたサンジさんであり。それへと、こっちは鼻で笑って、
「そっちこそ。足腰立たなくなってからじゃあ遅いんだ。名残りのないように、今のうち したいことやっとけよな。」
 うひゃあ〜。なんでそんな、いかにもな言いようを、さらりと交わせる方々なんでしょうか。ああ、でも今は違うでしょうよ。まずはゾロさんが勝ってからのお話だし、

   “あれが…向こうの大将。”

 相手はなかなか堂に入った武装をした渡り剣士という感じのおじさんで。鹿革の指のないグローブに、手首から肘までの籠手。上半身には沈んだ色合いの鋲を幾つも打った防具をシャツの上へと装備していて、左の肩には横に長い楯のようなプロテクターを載っけていて、
「…あいつ、どっかで見た顔だと思ったら。」
 大本営の一番前の長テーブルにつき、トーナメント表に印をつけてたお兄ちゃんがやっと思い出したのが、先月の初めあたりに新しく張り出されてた手配書だっていうからおっかない。でも、
「確か、最近肩書きが変わったっていう、売り出しの賞金首だ。元は賞金稼ぎだったんだがな。」
「え? 賞金稼ぎだったのに、今は手配されてるの?」
 あれれぇ? それって理屈ってのか、順番がおかしくない? だって、賞金稼ぎっていったらサ。凶悪な海賊とかお尋ね者とかに懸けられてる賞金を目当てに旅をしていて、成敗した相手を海軍事務所へ連れてってご褒美をもらう人…なんでしょう?
「それだのに、海軍の手配書に自分が載っちゃってどうするのよ。」
「何でも、賞金首を追っかけながら、普通の客船なんぞで一般人相手に大暴れをしたらしくてな。損害を受けたって届けが山のように出たもんだから、本人までもが追われる側になっちまったらしい。」
 そんなの別段 珍しいことじゃあないぞと。手にしていたボールペンでコツコツと机の上をつつきながら、お兄ちゃんが続けて言うには、
「ちょっと名前が出て来んのだが、イーストブルーからこのグランドラインへって殴り込みを掛けて来たばっかで売り出し中の、何とかって海賊団の乗組員
クルーにもな。途轍もない腕をした剣豪の“元・海賊狩り”がいるって話だし。」
 ふえぇえぇぇっ、それって? 何で?
「だから。何かがあって主旨変えしたんだろサ。」
「だって…真逆じゃないよ。海賊と海賊狩りだなんてサ。」
 その人も何か悪さをしたんだろうか。力が余って海賊じゃない人に怪我をさせたとか? あたしの言いようへ苦笑をし、
「そんなくらいじゃ手配書までは出回らないサ。」
 しょうがない奴だなぁって笑ってから、
「ただ…まあ。」
 お兄ちゃんはポリポリと、無事な方の手で自分の後ろ頭を掻いて見せると、


  「海軍からの手配書が出回ってるからって、何も絶対に悪人だとは限らない。」

   ――― え?


 空耳だったのかなって思えたくらいに。残響さえないさらりとした一言で。聞き返そうとしかけたタイミングに、場内がそりゃあ大きな歓声でどっと沸いた。


  【タンヌキ商会、剣客、荒海のゴンザ、
         対 鍛治屋、剣客 ぞろのあっ! 前へっ!】







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  *さあさ、試合も大詰めですよんvv